【後編】「母の愛情不足」に悩んだ45歳彼が見た光 カウンセリングに行けなくなった彼が感じた事

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新たな道を歩み始めた村木さん。どんな心境の変化があったのでしょうか(写真: mits / PIXTA)
燃え尽き症候群を患っていた村木蒼甫さん(45歳)。その裏には、彼が幼いころに母親から充分な愛情を受けて育ってこなかったことがありました。自殺を図ったものの、一命をとりとめた村木さん。精神保健福祉士で公認心理師の植原亮太さんが話を聞いて支えていましたが、村木さんはカウンセリングを無断キャンセルします。いったいなにがあったのでしょうか。植原氏による『ルポ 虐待サバイバー』を一部抜粋・再構成しお届けします。
記事の前編:【前編】「母の愛情不足」で45歳の彼が陥った苦悩

5回目のカウンセリングをキャンセルした約半年後に、彼は6回目のカウンセリングの予約を入れた。1回目のカウンセリングから、ほぼ1年が経過していた。

彼は、ここにいたるまでのあいだに、なにがあったのかを話しはじめた。

「4回目のカウンセリングが終わったあと、自宅に帰ってから動けなくなりました」

敷きっぱなしの布団のうえに膝から崩れ落ちたという。気がつくと、そこから数日が経過していた。そのあいだ、ほとんど眠れなかった。ときおり急に涙が出てきた。なにがなんだかわからない混沌とした日々だった。

喉が渇いて水道の蛇口をひねり、水だけは飲んだが、食欲はなかった。トイレに行くのさえ面倒だった。生きているというよりも、死んでいないだけだった。

深い谷底に落ちていく感覚だった

それから、ひとりで怒ったり怖くなったりを繰り返していた。

「大の大人が部屋のカーテンを閉めきって、頭から布団をかぶって、怖い怖い、と言っているのだから、いま思うと笑えますよね。だけど、あのときは本当に怖かった。まるで足首だけを摑まれて逆さ吊りにされ、そのまま手を離されて深い谷底に落ちていくのではないかという感じです。

そして、自分の足首を摑んでいるのは別の自分。落とされたくなければ、落とそうとしている自分の言うことに従わなければならない。それは、いままで通りに生きろ、という指示です」

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