じつは「明るい人のほうが仕事ができる」というのは思い込みだった…!調査でわかった「意外な事実」
ビッグファイブをはじめとするパーソナリティ特性理論に関して「聞いたことがある」という人は少なくないだろう。では、採用・配置・育成・処遇といった人的資源管理(HRM)の実務で具体的にどのように活かせばいいのか。『ワークプレイス・パーソナリティ論 人的資源管理の新視角と実証』(東京大学出版会)を著した鈴木智之・名古屋大学経済学部経営学科准教授に訊いた。
パーソナリティとその企業における成果の関係がわかると、採用が変わる
――ビッグファイブ理論の五因子(「外向性」「協調性」「開放性」「勤勉性」「情緒安定性」)のうち仕事の成果と最も高い相関を示すのが勤勉性因子であるとか、GRIT研究では「興味の一貫性」と「努力の粘り強さ」の2因子が長期的成功を生み出すという報告があるそうですね。こうしたパーソナリティ研究を既に採用などに活かしている企業もあるのですか?
鈴木 あります。たとえばGoogleは採用する人材に対して「協調性」を重視していることを対外的に公開しています。もっとも、ビッグファイブで言う「協調性」そのものだとは書いていないのですが、おそらくパーソナリティ研究を参照していると推測される内容です。また、ビッグファイブの「勤勉性」はIntegrityと繋がる概念でもありますが、たとえばGEはIntegrityを自社の企業文化だと謳っています。
――鈴木先生の『ワークプレイス・パーソナリティ論』の中では日本国内のある企業の事例として、面接などの選抜時に特定のパーソナリティ特性を重視し、会社説明会などで同社が求める人物像として特定のパーソナリティ特性を強調して数年後に効果検証した結果、入社後3年間の営業職の販売成績の平均値が有意に増加したことが明らかになったことが紹介されていました。今後は日本国内でもこうした取り組みが増えていきそうですか。
鈴木 そうですね。“personality”はかつて「人となり」と訳されていましたが、「性格」というより「人となり」のほうがみなさんのイメージが湧くかもしれません。どの会社もその人の人となりに関しては、採用活動時などに当然見たいと思っていることですよね。ところが昔から「知りたい」というニーズは高い一方で、かつては何をどう知ればいいのかがわかっていなかった。1980年代頃までは「人間のパーソナリティの構造はわからない」と言われていました。けれども90年代頃からビッグファイブなどにまとまり、2000年代からはダーク・トライアド研究も出てきたりして、人間の見方の枠組みが整理されてきました。それが企業にも徐々に浸透しているという状況です。
――「じゃあ、職場でパーソナリティ特性理論を活用して採用や評価に活かしていこう」……となる前段階の話として、鈴木先生による研究では、企業の中でも新卒採用時の面接基準について面接者間で一貫しない評価が下されていることがわかった、と書かれていましたよね。そもそも「求める人物像」が同じ企業の中でもブレていることがあると。
鈴木 ウソのような本当の話なんですが、いわゆる大手一流企業でも決まっていないことがあります。一部の進んでいる企業は人事や本社の人で決めてはいるのですが、採用面接には現場の人間もかり出されますから、そのときに現場の人は感覚値で判断してしまって人事や本部が定めた評価基準が一致しない、といったケースもあります。
――とすると、まず「社内で面接基準を揃える」、かつ、「パーソナリティ特性理論について研修によって知識を揃える」必要がありますよね。たとえば「うちの会社は協調性がある人を求めている」+「協調性がある人材とはこういう人である」「協調性とはどういうものを指すのか」といったことを社内で共有し、解釈のズレが生じないようにすり合わせておかないといけない。
鈴木 そうですね。経団連の「2018年度新卒採用に関するアンケート調査」で「選考にあたって特に重視した点」を見ると「協調性」は上から4番目にあるのですが、おそらくそこでイメージされている協調性はみんなとワイワイうまくやって成果を上げるような人ではないかと思います。しかしパーソナリティ特性理論で言う「協調性」の原語はAgreeableness、つまり「合意する」「承認する」を意味するagreeの派生形ですから、「控え目でおとなしく、言われたことを守る」「場を乱さない」という感じなんですね。たとえば「うちの会社もGoogleみたいに協調性重視の採用をしよう」と日本企業が言った場合に、そこで指している言葉の内実を確認しておかないと、解釈に大きなズレが生じてしまう可能性があります。