マイケル・C・ドナルドソンさんは84歳。氷の下を泳ぐアイスダイビングの記録を何度も更新している。
Michael C. Donaldson
- マイケル・C・ドナルドソンさんは現在84歳。エンターテインメント分野を専門とする現役の弁護士だが、氷の下を泳ぐアイスダイビングで数々の記録を樹立してきたスイマーとしての顔も持つ。
- そんなドナルドソンさんだが、自身の体の状態に気を使い始めたのは、70代に入ってからだったという。
- ドナルドソンさんは、自身が新たに取り入れ、年齢を重ねても生き生きと暮らすために役立つという、さまざまな生活習慣について明かしてくれた。
84歳のマイケル・C・ドナルドソン(Michael C. Donaldson)さんの本業は、エンターテインメント分野の弁護士だ。その一方で、氷の下を泳ぐアイスダイビングで数々の記録を樹立してきたスイマーとしての顔も持っている。
だが、ロサンゼルス在住のドナルドソンさんは、これまでの人生で、自身の健康や体力について考えることはほとんどなかったという。それは、自身のキャリアアップのために懸命に働いてきたからだ。だが75歳の時に、「いつか」やろうと思って先延ばしにしてきたことすべてを試す時間が、自分にはもうあまり残されていないことを悟った。
やってみたいことのひとつに、天井から吊るされた絹の布にぶら下がって、さまざまな動きをする「エアリアル・シルク・アクロバティックス」があった。最終的には自分に向いていないことがわかったものの、このエクササイズを体験した際にドナルドソンさんは、マーカス・ローガン(Markus Rogan)さんと知り合った。心理療法士で、水泳のオーストラリア代表としてオリンピックに出場した経験を持つローガンさんは、それ以来8年にわたり、さまざまなスポーツをやってみるよう、ドナルドソンさんの背中を押してくれたという。
ローガンさんは2023年、オーストリアに足を運び、氷の下を泳ぐアイスダイビング(水面を覆う氷の下を、呼吸を補助する装置なしで泳ぎ切るもの)で記録更新を目指した。このときドナルドソンさんも大会に顔を出したが、「自分は参加するつもりはない」と言っていた。だがその後、ドナルドソンさんは考えを変えた。そして、この競技に夢中になり、ローガンさんとともに、新記録達成のためのトレーニングを開始した。
Business Insiderの取材に応じたドナルドソンさんによれば、氷の下のスイミングに初めて挑戦した時には、「宗教的と言っていいほどの体験」を味わったという。
「たった一人の空間で、自分と冷たい水しか存在しない。そして、『自分はやり遂げる』という確信している」
2024年2月20日、ドナルドソンさんは84歳にして、氷の下を98.4フィート(約30メートル)泳ぎ切り、シニア男子部門の世界記録を樹立した。この時、ウェットスーツを着用していたが、フィン(足びれ)やダイビング・グローブの助けを借りることはなかった。
氷の下を泳ぐアイスダイビングで記録を達成し、水面に姿を見せたドナルドソンさん(後ろ姿)。
Michael C. Donaldson
ドナルドソンさんが身をもって実感したように、新しいことにチャレンジし、健康に良い生活習慣を取り入れるのに遅すぎることはない。アメリカ労働省労働統計局(BLS)の推計によると、2032年には、75歳以上の高齢者のうち、職に就いている人の割合は9.9%が達する見込みだ。2022年の8.2%と比べても増加傾向にある。こうした状況もあり、生き生きと暮らせる体力を保つことは、これまで以上に重要性を増している。
ドナルドソンさんは、「65歳から95歳までの期間は、『いつかやりたい』と思っていたことをやるべき時だ。人生の最後の3分の1にあたるこの時期が、真に人生最良の時間だ」と語る。
「私も、趣味やセルフケアに時間を割き、素晴らしい体験をしてきた」
そんなドナルドソンさんが、75歳を超えても丈夫で元気に暮らすために新たに取り入れた生活習慣について明かしてくれた。
その1:野菜をたくさん食べる
ドナルドソンさんは、100歳まで生きる人がとりわけ多い長寿地域、いわゆる「ブルーゾーン」を訪ね、こうした地域で暮らす100歳を超えた高齢者の生活を見聞したことをきっかけに、野菜をもっと多く食べる気になったという。ちなみに、訪問の目的は、現在執筆中の「65歳以降の人生を楽しむ生活術」についての本を書くためのリサーチだったという。
日本の沖縄や、コスタリカのニコヤなどのブルーゾーンで暮らす100歳以上の高齢者の大半は、果物や野菜、豆などの食材を丸ごと食べ、肉はほんの少ししか食べていない。
ドナルドソンさんは、自分が食べる分の野菜を栽培している。「栄養素が豊富な土壌で育てている野菜を食べているので、サプリメントを服用する必要はないんだ」と冗談まじりに語る。
栄養士も、ビタミンやその他の栄養素は、サプリメントよりも食事から摂る方が良いと考えている。また、栄養素が豊富な土壌から採れる農作物の方が栄養が多いことを裏付けるエビデンスも、ある程度は存在する。
その2:お酒を控える
「以前は私も、夕食には1杯のワインを欠かさなかった」とドナルドソンさんは振り返る。
「今は、夕食の時にワインを飲むことはほぼなくなった。ただしその理由は、禁酒を誓ったから、というわけではない」
「単純な話だ。私は沖縄やコスタリカの長寿地域でそれぞれ1週間を過ごしたが、酒を飲んでいる人を見かけなかった。そうした100歳を超える人たちのすべてが酒を飲んでいないことには何か理由があると気づかざるを得ない」
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、アルコールは、がんや高血圧をはじめとする幅広い疾患のリスク増と関連があるとされている。また、飲酒が運動のパフォーマンスに悪影響を与えることを示唆する研究もある。アスリートや、ドナルドソンさんのような、大きな大会に備えてトレーニングに励んでいる人にとっては、望ましくない話だろう。
また、アルコールに関しては「どんなに少量でも体に安全とは言えない」というのが、世界保健機関(WHO)の見解だ。
その3:牛肉などの「レッドミート」はできるだけ食べない
「私の食生活は一変した。以前は朝からステーキや卵料理を食べ、昼食にはハンバーガーを選び、夕食ではどんな種類の肉でもかまわずに口にしていた。それが今では、レッドミート(牛肉や豚肉、羊肉などの哺乳類の肉)は、本当にめったに食べなくなった。今は、鶏肉や魚が主なタンパク源だ」とドナルドソンさんは言う。
このように食生活が大きく変わったのは、1年ほど前のことだ。沖縄やコスタリカで暮らす100歳以上の人たちが、野菜中心の食生活をしているのを目の当たりにして、「レッドミートを避けることに、どれほど健康上のメリットがあるかを悟った」からだという。
レッドミートには飽和脂肪酸が多く含まれていて、これが一般に「悪玉コレステロール」と呼ばれる、血中のLDLコレステロール値を上昇させ、心臓血管系の疾患につながるおそれがあると言われている。
さらにレッドミートは、国際がん研究機関(IARC)が定める基準では、全部で4段階あるうち上から2つ目の、「ヒトに対しておそらく発がん性がある」グループに分類されている。これはすなわち、ヒトにおいて発がん性を示す限定的な証拠があり、さらに実験動物においては発がん性の十分な証拠がある物質を指す。
米オハイオ州にあるクリーブランド・クリニックによれば、レッドミートは1週間に1~2回を超えて食べるべきではなく、鶏肉などのホワイトミートを選ぶか、あるいはベジタリアンメニューを選択することが、一般的に言って健康に良いとのことだ。
その4:呼吸エクササイズをする(ドナルドソンさんの場合)
酸素タンクの助けを借りず、氷の下を100フィート(約30メートル)近く泳ぐつもりなら、息を止められる力をつける必要がある。そこでドナルドソンさんは、自身にとって最初の氷の下水泳に挑む6週間前から、呼吸能力を高めるエクササイズを行なった。
ドナルドソンさんはこのエクササイズで、まずはできる限り息を吸い、その状態をキープできる時間を次第に長くしていった。この訓練の結果、最終的には3分間、息を止めていられるようになったという。
さらにドナルドソンさんは、よりアクティブに運動しつつ息を止める訓練も実行している。深く息を吸った後に75ヤード(約69メートル)走り、それから35ヤード(32メートル)歩く、というトレーニングだ。
ドナルドソンさんの場合は、自身のトレーニングのためにこうした呼吸能力を鍛えるエクササイズを実行しており、これは平均的な人にはお勧めできない。ただし最近の研究成果では、大半の人にとってなじみ深い「深呼吸」にも、血圧を下げ、ストレスや不安を緩和する効果があることが示唆されている。