
- ミレニアル世代の税務弁護士が「ボランティア所得税支援プロジェクト(VITA)」に参加するため、アラスカの寒さに立ち向かった。
- VITAプログラムはアラスカで暮らす低所得者や身体障害者、あるいは英語に問題を抱えている人々を確定申告の際にサポートする。
- カレン・ラペカス氏はパイプの凍結や凍傷のリスクなどに見舞われながらも、故郷から遠く離れた土地の人々を支援した。
確定申告はストレスの多い作業だ。それをマイナス30度の環境でやっている自分を想像してみよう。
マイアミ出身のカレン・ラペカス氏は、税務弁護士としてまさにそれを実行したのだ。2月終わりから5月初頭まで、ラペカス氏はアラスカのVITAに参加し、3つの遠隔地を訪れた。
このプログラムはアラスカ州ビジネス開発センターと全米弁護士協会が協力して今年スタートさせた。年収が5万4000ドル(約810万円、1ドル=150円換算:以下同)以下の人々、身体障害者、あるいは英語力が不十分な納税者を、納税の準備でサポートすることが目的だ。両組織はこれまでも、州内のほかの納税者が申告する際にサポートを提供してきた。
ラペカス氏は11日でおよそ85件の納税申告書の作成を手伝った。だが、最大の難問は迷子になった「源泉徴収票」を見つけることなどではなく、氷点下で働くことだった。
「北へ行けば行くほど、気候は厳しくなっていった」とラペカス氏は語る。「私たちが働いた建物のひとつでは、パイプが凍りついたため、トイレが使えなかった」

氷点下の気温は厳しかった
かつて国税庁の主席顧問事務所の上級弁護士として働いていたラペカス氏(42歳)は、税務訴訟を扱う事務所を立ち上げ、10年以上にわたって、国税庁と訴訟関係にあるクライアントの代理を務めてきた。
ラペカス氏とほかの3人で構成されるチームはアンカレッジに到着したあと、最後の対面訓練を受け、その後アラスカ州北部にある集落へと飛んだ。そして、コツェビュー、ポイントホープ、ポイントレイの3カ所でボランティアとして活動した。ウェザー・チャンネルによると、ポイントレイは人口が300人に満たず、気温はマイナス50度近くにまで下がる。
「たとえ数分でも、肌をほんの少し露出しただけで凍傷になる」とラペカス氏は言う。「私たちが納税申告書を作成していたとき、住人のひとりがセンターに来るために歩いていただけで凍傷になった。3ブロックほどしか離れていなかったのに」
ラペカス氏の話では、彼女とチームメンバーはコミュニティ・センターや学校の床で寝ていた。訪れた村にはホテルがないからだ。新鮮な食料が不足していたので、保存のきく乾燥食品を食べて過ごしたそうだ。

遠隔地の人々にとって納税申告は高いハードルだった
各コミュニティの人々にとって、VITAプログラムは納税申告をデジタルの形で行なうためのサポートを得る機会になったとラペカス氏は説明する。そして、現地の人々にとっては、郵送で申告するのはとても困難だと付け加えた。
「たとえばポイントホープにいたころ、そこの郵便局は閉鎖されていた」と、ラペカス氏は850人が暮らす村について語る。
アラスカ州VITAプログラムが始まる前は、村人たちは飛行機でアンカレッジに行って、会計士に代金を支払って納税の手続きをしてもらったそうだ。フライト、ホテル、会計士の手数料で毎年2000ドルほどの出費になったと、アラスカの人々はラペカス氏に説明した。
「彼らは収入が少なく、申告内容もシンプルなのだから、これは法外な出費と言える」とラペカス氏は語る。
ラペカス氏とチームは11日の滞在中、長時間働いた。朝9時に始め、休憩なしで真夜中過ぎまで申告書をつくりつづけた。ラペカス氏のクライアントの多くは学校で働いていた。地元コミュニティのサポートサービスに従事する人も多かったが、捕鯨、狩猟、あるいはほかの形の天然資源に依存しながら自給自足をしている人もいた。

「ほぼ完全に先住民の文化だった」とラペカス氏は言う。アラスカ先住民が人口に占める割合は、コツェビューで70%、ポイントレイで88%、ポイントホープでは89%だ。
「先住民コミュニティに属するアラスカ人の確定申告でユニークだったのは、子供も含めてほぼ全員が収入を得ていたこと」とラペカス氏は言い、クライアントの多くがアラスカ永久基金とアラスカ先住民地域コーポレーションから金銭を受けとっていると付け加えた。
仕事の報酬
今回、ラペカス氏は初めてこのボランティア活動に参加したのだが、来年も参加できることを望んでいる。
「無償のボランティア活動には、私を元気にしてくれる何かがある」とラペカス氏は言う。「仕事に目的を与えてくれる」
明るいマイアミに戻ったラペカス氏が最も喜んだのは、2歳と5歳の子供たちに会えたことだった。
「子供たちの手本になることが自分の望みだったことを、改めて思い出した」とラペカス氏は語る。「自分にできる形でボランティアとして人々をサポートすることが人生の使命だと、子供たちに知ってもらいたい」